シドニー・ブロック先生の講演会に運良く参加できた。先生はオーストラリアの精神科医らしい。
オーストラリアにある、ダックスセンターという所で所蔵されている、うつ病患者による作品がいくつか展示されており、その説明です。
ダックスセンターはうつ病患者が描いた作品を収集し続け、それは1万5千点にもなるそうです。
写真はNGとのことなので、文章のみでメモしていきます。
■Laura Gronn
彼女はうつ病にかかり、数年後、若くして自殺した。親はそのことがショックで、彼女の残した作品を所蔵し、彼女が何を考えていたのか知ろうとした。
彼女の描いた自画像は逆さま。何かに押さえられている。
時には言葉をグラフ的に描いて、自分の感情を表現した作品を残した。中央には孤独と書かれ、周りに生えている枝の先には彼女が考えていること。
■Daniel
心臓発作を起こして心臓切開手術をした。そして彼は後に自分の体を外科医がまっぷたつにした絵を描いた。そのような絵を280枚描いた。体中が歪んだ絵を描いた。特に胸のところはまったく空っぽになった。外科医が心臓などの臓器をすべて取り除いた。
医師や看護師はまるで患者を見ているのではなく、心電図などの機会をチェックするだけ。そのことに非常に怒りを覚えた。
彼の病院の絵は医療器具、病院の建物だけで、人間が一切無い。
そして10年後に自画像を描き始める。ひょっとして、過去の心臓切開手術のせいで、自分は早くして死ぬんではないかと考え、うつ状態になった。顔がブルーで描かれている。英語ではブルーは悲しみや気が沈んでいることを示している。そして目にも悲しみが見える。
■Julie Goodwin
30代の母親。出産後、非常に暗い穴に落ちいり、うつ病にかかった女性。一般的に15%の母親が産後、うつ病にかかる。うつ病にかかると自分を隠して赤ちゃんに関心がなくなる。時には自分を殺して、赤ちゃんも殺す例もある。
彼女は2人の子供と新しい赤ちゃんに、全く関心が無くなる。
ある日友達に、私はエジプトのミイラになった気がすると言っていた。
彼女は元々アーティストで似顔絵を描いて日記も付けた。
彼女の残した作品は、絵と日記である。症状が重くなるにつれて、文章は生々しく、絵は荒々しくなっている。これを見れば、ほんとに辛い病気なんだとすごく感じる。
■Isabella Duncan
女性は男性に比べてうつ病にかかる割合が多い。女性はホルモンのバランスが非常に不安定になるから。
彼女の場合、最初の妊娠は死産になった。これは遺伝的な理由で死産になった。その後、2回も死産。よって合計3回の死産を経験。それは彼女、そして彼女の夫にも悲しい出来事であった。
彼女がどのように感じて作品を作ったか。
彼女の作品には仮面が使われている。仮面は命が無い、空っぽの意味が有る。彼女は彼女を仮面に例えている。
彼女は心理的な感情であるトラウマを受けている。
赤い血の涙。彼女自身の体は人魚になっている。先生の解釈だが、ひょっとしたら人魚は赤ちゃんを生まない、それは自分だと感じてこの絵を描いている。
彼女はこのあと元気な赤ちゃんを2人生んで、病気から見事に回復した。この経験から、アートが如何に自分の情緒を表すのに大切かを学んだ。
■Richard McLean
二十歳に統合失調症になった。
50代60代でもその病気に苦しんでいる。
新聞社で働くイラストレーターだった。今では有名なアーティストとして活躍している。
人間は非常に小さくなっている。信号やビルは大きい。ところがこのRichardが描くと、人間は非常に小さくかかれ、信号やビルは非常に大きく描かれている。
彼はいつもまるで自分は物体になっている。そして大きな瓶に入っている。その周りは人で囲まれている。よく統合失調症の人が言うのだが、自分は人間ではなく感じ、そして周りの人を奇妙に感じ、自分に被害を与えるのではと考えている。
■Rena Hoffman
1945年、広島長崎に原爆が落とされ、沢山の人が死んだ。
その出来事を敬遠したサバイバー(事故や事件、災害などに遭いながら生きのびた人)はトラウマを受けている。それは逃れられず、日々の生活を送っている。
彼女は40歳の女性。ヨーロッパのアウシュヴィッツ収容所事件のサバイバーの子供。彼女の両親が犠牲になったが、彼女自身は体験していない。そういった子供は、親が体験したことを、直接聞かず(聞けず)、想像してしまう。
典型的にサバイバーは子供にそういった経験を教えない。彼女は両親からその体験を教えてもらっていない。しかしサバイバーの子供は親が経験した体験を一生懸命イメージしようとしてしまう。
Renaはこれをアートに表している。これは涙の谷。彼女は本来なら何百万という涙が流されるべきだけど、実際は流されなかった。それら流されなかった涙を、ここで流している。
ブラックボックスは毒ガス室。沢山の人が毒ガスを受けて殺された。周りにある赤い色は死体を消却する煙及び炎ではないか。ブラックボックスから出ている黒いにょろにょろは魂ではないか。ユダヤ教は魂は神から体に移され、死ぬと神にもどされると考えている。
うつ病とは、様々な体験があり、それらは1つ1つがまったく違った体験。それぞれの症状がある。
子供とアートセラピーはオーストラリアでは当たり前のことになっている。
オースとラリアではアートセラピストは大学の修士でとれるが、2大学しかなく、非常に狭き門である。オーストラリアではまだ187のセラピストしかいない。
<疑問>
これらはうつ病患者が絵を描くことで自己や内面を外に表現し、そのことで症状が少しずつ改善されていく例がほどんど。しかし、絵を描く(又は何かを表現する・生み出す)という治療法は、すべてのうつ病の患者に対して良いことなのか。
<感想>
世の中の人間が自分の感情を絵など形にすることが救いとなるならば、教育で教えなければならないのは、自分の中にわき起こるイメージをどのように具現化するのかということ。また、絵は自分の感情を表現するツールでもあること(そしてそれは辛いときに有効であること)、この2つが重要である。
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